わが内なる子供の世界は、ひびの入ったガラスの器か

 酒乱でものをぶちこわす父親や家族のもとで日々暮らすということは、それを毎日見せ付けられる側にとっては、健全な心をこわされていくのと同義だ。

 毎晩のように、父は酔って窓ガラスを割り、食器をたたきつけてこわし、箸を折り、家具を傷つけ、電化製品を投げつけてこわし、家庭の団欒というものを、まったく味わわせてはくれなかった。弟が青年期に入って大人になると、父と同じになり、酒の上での親子ゲンカが毎晩だった。
こわされる食器やガラスの量が増えたかもしれない。

 呪わしい酒乱というアルコール依存症者。父も祖父の酒乱を見て育って、若いころは、あんな風になりたくないと嫁にきたばかりの母にいっていたというのだが、ACの典型的なケースのように同じ人種になって、次男も同じにしてしまったわけだ。

 シラフで生きられないという、どうしようもない弱さ。それがアルコール依存症者の特質だ。病気といえば、聞こえはいいが、とにかく現実的には弱者(心理的虚弱者)である。なぜ、シラフでは生きられないほど弱くなったのか、それはAC理論が教えている。

 アルコール依存症者の家庭にいる子供には、健康で安定した静けさへの感受性や、対立や衝突はあっても仲直りできるというような人間関係への信頼が育たない。家庭は常に、いつだれが爆発するかわからない戦場であり、いつどこで事故や事件が起こるかわからない治安のない無法地帯だ。

 私は、三十歳代から、家庭用のガス湯沸かし器が、操作中にいきなり爆発するのではないかという妄想がはじまり、いまも時々ある。ガスの風呂釜が、ボカンといって何もかも吹き飛ばすという突発事件への恐れがおきる。

 弟が生きているころ、やはり私と同じ妄想や恐怖をもっているのを知って、「え、やっぱり?」と兄弟で不思議がった記憶がある。なんのことはない、私も弟も同じACで、父親の酒乱の暴力への過剰適応によって、いつも「この家の中では、いついかなるとき、コントロール不能な悲劇や惨事が起こるかわからない」という「トラウマ(防御反応)」を刷り込まれてしまったのだ。

 いま、私には、もうひとつの妄想がある。ストレスがたまってくると、ガラスのコップやかけている状態のメガネのレンズに、なんの予兆もなくいきなりひびが入るという危険な痛そうな妄想にとらわれる。だが、そういう受動的なものだけでなく、積極的な破壊衝動も起きる。サッシのガラスをたたきこわしたくなったり、花瓶を割りたくなったり、テレビの受像機のまんなかに固いものをたたきつけたくなり、携帯電話をぐちゃぐちゃにつぶしてしまいたくなる。

 それらの「こわしたくなるもの」リストに共通するのは、すべて「主要な機能部がガラスでできている」ということだ。父のやっていたことを、私まで、しかもシラフでやるわけにはいかないので、妄想で終わっているが、5年前から断酒しているが、あのまま飲み続けていたら、私も酒乱になっていた可能性があると、最近、気づいた。

 ガラスの製品が、自然にそのまま普通にいつまでも使われていくという「安心感」がないのだ。「すぐにこわされてしまうにちがいない」という「不安と不信」しかない。人が大切にすれば、寿命がくるまで長期にわたって使えるものを、酔って感情にまかせていとも簡単に破壊してしまう酒乱の鬼を間近に見て育てば、こうもなるというものだ。

 ああ、そうか。子供の私は、どこかで感じていたのだな。
「きっと自分もいつかは、あの電気釜やガラス窓やタンスや茶碗のように、無理やり、途中でこわされてしまうのだ。安心して自分の形と役割をまっとうできずに、なんの抵抗も反発も抗議もできずに、ただなすがままに壊され、捨てられ、ゴミになってしまう悲運にみまわれるのだ」と。

 親の暴力によって、安心も安全もケアもない家庭の子供は、みんなそうなんだと思う。
 私たちACは言葉以前に信じている。どんなにきれいで高価で貴いものも、結局は非道な暴力によって破壊され傷つけられてしまい、終わりをまっとうすることはないと。人間も同じだと。たとえ、どんなに優れていてきれいで高貴な心の持ち主であっても、暴力的に破壊されおとしめられるだけなのだと。

 だが、私は子供のぼくにいう。

「酒乱やアルコール依存症者や問題飲酒者や、暴力的な心の病をもった人とかかわり続けていればそうもいえるだろう。だけど、離れればいいんだよ。安心や安全を与えてくれない人間からは離れればいいんだよ。そうして居心地のいい場所を探せばいいんだ。もう何もこわされない、何も突発事件が起こらない、暴力も起きない場所を、いっしょに探すことにしよう」
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by ecdysis | 2008-09-28 01:33 | アダルトチルドレン・依存症 | Trackback | Comments(0)